鬼子母神とは
鬼子母神は、法華経に登場する仏教の守護神です。鎌倉時代に法華経に依る衆生救済を説いた日蓮宗の開祖である日蓮聖人は、鬼子母神の守護力を度々説き、御書の中で「十羅刹女と申すは十人の大鬼神女、四天下の一切の鬼神の母なり、また十羅刹女の母なり、鬼子母神これなり」と述べられ、日蓮宗寺院では法華経の守護神として祀られています。
原語はハーリティー・訶梨帝母と言われ、「パーリ経典」の「サンユッタ・ニカーヤ」と、それに相当する漢訳「雑阿含経」「別訳雑阿含経」という最古の経典群に含まれ、鬼子母神の仏教流入は古いと考えられています。
鬼子母神説話は次のようなものです。インドのマガタ國の首都大舎城で大祭が催されました。牛飼いの女性が友人に誘われ大祭に参加しました。酒を飲み踊った牛飼いの女性はその場で倒れ流産してしまいますが、村人達は女性を助けることはせず、遠巻きに見ているだけでした。女性は薄情な村人達を怨みながら死んでいきました。
この怨みがもととなり、牛飼いの女性は、インドのサプタ夜叉一族の娘として産まれかわり、ハーリティーと名付けられました。サプタ夜叉はパンチャーラ夜叉と親しく、ハーリティーはパンチャーラ夜叉一族の息子であったパンチーカと結婚し、千人の子供を授かり、末子にピンガラと名付けました。ハーリティーは前世の因縁のため、王舎城に出かけて行っては、村人達の子供をさらって喰い殺すという悪行を繰り返します。なす術のない村人達は、お釈迦様に助けを求めました。
村人達の話を聞いたお釈迦様は、ハーリティーが最も可愛がっていた末子のピンガラを自分の懐に隠します。ピンガラがいなくなったことに気がついたハーリティーは、ピンガラを探し求め八大地獄まで探し回りました。けれどもピンガラは見つからず、絶望したハーリティーはお釈迦様のもとを訪れ、お釈迦様の力によってピンガラを探してくれるように頼みました。けれどもお釈迦様は、「お前は千人も子どもがいるのだから一人くらい居なくなってもかまわないであろう」と取り合ってくれません。ハーリティーは、「何人いようと一人一人大切な子どもなのです」と訴えます。お釈迦様は「千人の内の一子を失ってもこのように悲しんでいる、人の子の一人、または二人を失った時の悲しみはどんなものであったろうか」と問います。
我が子を失った悲しみと、村人達が自分の悪行によって子供を奪われた悲しみとを重ねたハーリティーは、お釈迦様の教えを受け、自分の行いを悔い改めました。それを見ていたお釈迦様はハーリティーにピンガラを返します。そしてハーリティーは鬼女から、お釈迦様の教えを信望する人々を守護する神様、「鬼子母神」となりました。
